5-1 決算処理の体系
5-2 各勘定科目の残高確認
5-3 仮勘定科目・経過勘定科目の整理
5-4 有価証券の評価
5-5 医業収入総額の確認
5-6 医業仕入総額の確認
5-7 人件費総額の確認
5-8 決算修正取引(棚卸)
5-9 決算修正取引(減価償却)
5-10 決算修正取引(貸倒引当金の計上)
5-11 資産との区分が必要となる費用
5-12 交際費とその他周辺科目との区分
5-13 寄付金の取扱い
5-14 個人と法人間での建物貸借時の留意点
5-15 生命保険料
5-16 諸会費の取扱い(旅費・学会費等)
5-17 福利厚生費
5-18 リース料の取扱い
5-19 個人開業医の家事関連費
5-20 個人開業医の特例適用(措置法第26条)
5-21 決算方針書
5-22 決算確認報告書
5-23 決算自己チェック表
5-24 書面添付チェックリスト
5-25 消費税の確認ポイント
5-26 源泉所得税の確認ポイント
1   福利厚生費

従業員の福利厚生のために支出した金額であれば、経費として認められます。しかしその範囲は広く、支出の趣旨によっては給与手当や交際費として処理する必要があります。
福利厚生費の大前提としては、従業員の福利厚生のため、すべての従業員に公平であり、社会通念上妥当な金額までとされています。そのため、例えば、特定の個人との飲食の場合、福利厚生費とはいえず、交際費になる場合があります。たとえば、診療が終わると事務長さんとだけ、二人で居酒屋へ飲みに行くことはよくあることでしょう。でもこれは福利厚生費ではなく、厳密には交際費となります。

例えば、医療事務の打ち合わせであれば、会議費となりますが、その場合、会議と言えるにふさわしい飲食代となりますから、アルコールは無いほうがベターです。職員旅行の場合も、すべての職員への公平性が求められますから、全員参加、すくなくとも50%以上の参加がなければ、福利厚生費とはいえず、参加した職員への給与となってしまいます。
また、専従者との飲食は家事費となります。
 
@ 社会保険料
法律の規定によって事業主が負担する、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料等は必要経費として認められます。
 
A 従業員の慰安のための費用
この場合、参加者を限定した場合や、不参加者に、参加に代えて金銭を支給した場合には、その行事の全部が福利厚生費とはならず、その行事に参加した従業員全員の“給与”となり源泉徴収の対象となりますのでご注意下さい。ただし、事業の必要に基づき参加できなかった従業員、例えば“当直看護師”に対する金銭の支給は、その人だけが給与所得となり他の参加者には影響しません。
 
B 病医院の行事費用。病医院の創立記念
新築落成等のために一律に従業員に支給する記念品の費用で、記念品としてふさわしいものであり、かつ処分見込額が10,000円以下であるものです。
一定期間ごとに行われる記念については、おおむね5年以上の期間ごとに支給されるもとなっています(所法基通36−22)。
 
C 従業員の慶弔等の費用
従業員の慶弔や永年勤続表彰に際し、一定の基準で支給される記念品で、その金額が社会通念上相当と認められる範囲内の記念品です。その場合、その表彰が、おおむね10年以上の勤続者を対象とし、2回以上の表彰者については、おおむね5年以上の間隔で行われることが必要です。
 
D 従業員の親睦会等への援助費用
この場合、事業主が単に親睦会等へ支出しただけでは必要経費とはならず、親睦会等が実際に支出した額に限り必要経費とされます。このため、親睦会等では、責任者を決めて出納関係を明確にする必要があります。また、その金額を受けた親睦会等がその金銭を分配した場合は当然給与になります(参考:法人税法基通14−1−5)。
 
E 保険料等
満期返れい金のないもので、使用人を被保険者とする生命保険、傷害保険、身体・生命を目的とする共済契約の掛け金を支払った場合や上の保険料以外の保険料、共済掛金で月額または月割額が300円以下の金額を負担した場合(所法基通36−32)。
 
F 創業記念功労金・創業記念日に支給する記念品
処分見込価格10,000円以下のものであれば福利厚生費になりますが、10,000円を超える記念品または〇〇年永年勤続者に金一封として贈呈された現金は福利厚生費とはならず、給与として源泉徴収の対象となります。支給した事業主は給与として事業の必要経費になりますから、事業所得計算上は同じ結果ですが、従業員の税金は増えることになります(所法基通36−21、36−22)。


2   福利厚生費に関する税務上の留意点

@ 看護師への白衣、事務員への事務服の支給
使用者が、その職務の性質上制服を着用すべき従業員に対して、制服その他の身の回り品を支給することによる経済的利益については、所得税法上、非課税所得とされていますが、専ら勤務場所のみで着用する白衣、事務服についても同様に取り扱ってよいことになっています。
ただし、非課税とされるのは、専ら勤務場所において着用する白衣、事務服の現物による支給ですので、勤務場所以外でも着用できる(私服としても利用できる)ようなものの支給や制服手当てのように現金で支給される場合には給与として課税されます。
 
A 研修・技術習得費用の支給
使用者が、自己の業務遂行上の必要に基づき、従業員に対して職務に直接必要な技術若しくは知識を習得させ、又は免許若しくは資格を習得させるための研修会、講習会等の出席費用を支給した場合には、これらの費用として適正なものに限り給与として課税する必要はありません。
ただし、病医院に入る前に採用内定者に対して技術を習得させ、病医院に勤務してからその習得費用の支給をするような場合にはその者の労務の対価として支給するものに該当するため給与として源泉徴収する必要があります。
 
B 食事等の支給
従業員に支給した食事の現物及び食費、食事代として支給した現金は、給与として課税が原則ですが、食事を現物で支給する場合で@、Aのようなものについては課税しないこととして取り扱われています。
 
C 食事の支給による経済的利益はないものとする場合
使用者が従業員に支給する食事についてその価額の2分の1以上を徴収している場合の経済的利益。 ただし、その食事の価額から実際に徴収している額を差し引いた額が1ヵ月1人当たり3,500円を超えるときは、使用者が負担した部分の全額が課税対象となります。
なお、1人3,500円の範囲で食事手当として金銭で支給した場合は課税対象となります。

食事を非課税とする計算例 ――
1ヵ月の食事回数を20回とすると、イ、ロの場合非課税 3,500円÷20回=175円
イ.食事の価額が1食350円以上 ⇒ 価額から175円を差し引いた金額を従業員が負担
ロ. 〃 未満 ⇒ 価額の50%以上を従業員が負担

D 残業又は宿日直をした者に支給する食事
従業員が通常の勤務時間外に残業又は宿直・日直した場合に使用者から支給される食事。
 
E 寮の貸与
従業員への住宅や寮の貸与については、貸与物件が病医院所有か借上社宅かに関係なく、次の算式で算出した金額(月額)の50%以上を徴収していると非課税となります。
ただし、徴収額が50%に満たないときは、次の算式で計算した金額と徴収している金額との差額が給与として課税されます。また、従業員が自分で借りた物件の家賃の50%分を病医院が金銭で支給したような場合は、現金支給ですから住宅手当は全額課税対象となってしまいます。

【通常の賃貸料の額(家賃の基準額)】1ヵ月当たり
「その年度の建物の固定資産税評価額×0.2%」+「12円×その建物の総床面積(u)/3.3(u)」+「その年度の敷地の固定資産税の課税評価額×0.22%」

【事例】
従業員用の寮1棟(5室、総床面積132u、建物の固定資産税課税標準額800万円、敷地の固定資産税課税標準額1,000万円)を看護師及び事務員に貸し、寮費を

イ.月4千円とした場合と
ロ.月3千円とした場合をみてみましょう。

800万円×0.2%+12円×132u/3.3u+1,000万円×0.22%=38,480円
38,480円÷5(室)=7,696円
 
イの場合・ 7,696円×50%≦4,000円 よって非課税となります。
ロの場合・ 7,696円×50%>3,000円 よって7,696円−3,000円=4,696円が現物給与として課税されます。

F 健康診断料の負担
使用者が福利厚生の一環として他の医療機関で定期健康診断や成人病の検査のために支出した費用は福利厚生費となり、次のような要件を満たしていると給与課税はされません。
 
特定の者のみを対象とせず、また健康診断料が使用者から医療機関に直接支払われること。
健康診断の内容が健康管理上の必要性から一般的なものであり、その費用が通常必要と認められる範囲内であること。
 
G 歓迎会費用
使用者が負担する歓迎会の費用は福利厚生費として取り扱われますが、通常一般的に行われる行事の費用として相当な金額の経済的利益については課税しないこととして取り扱われています。 ただし、その費用が不相当に高額であったり、特定の使用人を接待するようなものであれば福利厚生費に該当せず、交際費若しくは業務の遂行上直接必要がないようなものについては参加者に対する給与になる場合もあります。
ひとつ前のページへページ先頭へ次のページへ