Management Column令和7年度査察事案で読み解く「脱税」の最新手口

国税庁から「令和7年度査察の概要」が公開されました。今回のデータで驚くべきは、告発された脱税額が「1件あたり平均1億200万円」と、過去10年で最高額を記録した点です。単なる申告の手違いでは済まされない、悪質な国際取引や消費税の不正還付に対し、国税局が厳しく調査を行っていることが窺えます。今回は私たちの社会を支える申告納税制度の裏側で横行する「脱税」の実態について、解説します。
1.「脱税」とは何か?
日本の税金は、納税者が自ら正しく計算して申告、納税する「申告納税制度」で成り立っています。
しかし、中には故意に不正な手段を使って税金を免れようとする者がいます。これが脱税です。具体的には、以下のような手口が使われます。
- ■売上の一部を隠して少なく申告する
- ■取引がないのに嘘の経費を計上する
- ■国から税金の還付を不正に受ける
こうした悪質な脱税に対して、国税庁・国税局の国税査察官(通称:マルサ)が裁判所の許可を得て強制調査を行い、刑事罰を科すための証拠を集める手続きを「査察調査」と呼びます。
2.令和7年度 査察の概要
令和7年度の査察では、時代の変化を反映した多様な不正や、国庫をだまし取るような悪質なケースに対して厳正な調査が行われました。主な特徴は以下の3点です。
■ 1 :ソーシャルメディア(SNS)関連の脱税
インターネットやSNSの普及に伴い、新しいワークスタイルの事業者による脱税が目立ちました。
SNS関連の事業は「現金ではなくデータ上で取引が完結することが多い」「店舗を持たないため実体が見えにくい」といった特徴があります。
- ■インフルエンサー
- 美容系インフルエンサーの広告代理会社が、実体のない架空の業務委託費を計上して法人税などを免れていた事例。
- ■イラストレーター
- SNSを通じて海外の顧客にイラストを販売し、得た収入の一部を申告から除外して所得税を免れていた事例。
■ 2 :海外取引を悪用した巧妙な手口
経済のグローバル化に伴い、海外の法人や口座を使った巧妙な隠蔽工作に対しても、外国の税務当局と情報交換を行うなどして摘発されています。
- ■海外の協力者と架空仕入れを画策
- 海外の不正協力者と口裏を合わせ、実際には仕入れていない商品や、実際の金額よりも水増しした偽の請求書を作成させました。それを「仕入経費」として日本の税務署に偽って申告し、会社の利益を大幅に少なく見せかけていました。
- ■架空仕入れを海外口座へ
- 架空の仕入れによって浮かせた不正な資金は、日本国内の口座に戻すとすぐに発覚されます。そこで、この会社は、その資金を海外の銀行に開設した預金口座に送金し、そのまま海外に隠し持っていました。
■ 3 :「国庫金の詐取」にあたる消費税の不正受還付
消費税の仕入れにかかった税額を差し引いて計算する仕組みを悪用し、本来払うべき税金を免れるだけでなく、国から不正にお金を払い戻させる「還付金詐欺」のような悪質極まる事案も厳しく告発されました。
- ■ダミー会社を使った「国内仕入れ」の偽装
- 国から消費税の還付を受けるため、過去に海外から輸入した機械装置を国内事業者から過大な金額で取得したように装い、不正に消費税の還付を受けていました。
- ■仕入れ税額控除を悪用した「還付金」を詐取
- 不正加担者と口裏を合わせ、嘘の見積書や請求書を偽造。実際には買っていない設備などの存在しない資産を購入したように装いました。これにより、買い物の際に支払った課税仕入れを水増しし、本来納めるべき消費税を免れるだけでなく、すでに先払いしていた中間納付分を国から不正に還付させていました。
3.令和7年度の「査察の実績」と「判決」
「令和7年度 査察の概要」では摘発された件数や脱税額が公開されています。
■告発件数と脱税額
検察への告発は前年より16件少ない82件、脱税総額は83億9,000万円に増加し、1件あたりの平均脱税額が1億200万円と過去10年で最高を記録した点です。件数の減少と大口化から、悪質で規模の大きい事案へ厳選して告発している様子が伺えます。
| 区分\年度 | 令和4年 | 令和5年 | 令和6年 | 令和7年 |
|---|---|---|---|---|
| 所得税 | 19件 | 14件 | 16件 | 13件 |
| 法人税 |
47件 |
59件 |
48件 |
44件 |
| 相続税 |
2件 |
1件 |
2件 |
2件 |
|
消費税 |
(内16件)34件 |
(内16件)27件 |
(内17件)29件 |
(内12件)23件 |
| 源泉徴収税 |
1件 |
0件 |
3件 |
0件 |
| 合計 |
103件 |
101件 |
98件 |
82件 |
税目別の告発件数 :(注)消費税の内書は消費税不正受還付事案(ほ脱犯との併合事案を含む。)の告発件数である。
■有罪率100%と実刑判決
令和7年度中に判決が出た一審裁判(80件)では、すべての事件で有罪が言い渡されました。そのうち6人には執行猶予のつかない実刑判決が下されています。
- ■ 懲役6年
- 複数の納税者に脱税のやり方を教えていた「脱税指南グループ」の首謀者に対し、懲役6年の実刑判決が下されました。
- ■ 懲役4年
- 架空の経費を帳簿に偽装して利益を圧縮し、法人税の支払いを免れた容疑者は、詐欺罪も同時に犯した併合罪で懲役4年の実刑を下されました。
4.隠された脱税資金のゆくえ
脱税で浮かせたお金の大半はタンス預金や口座に眠っていましたが、中には数千万円もの大金を個人の資産づくりに投資したり、個人的な娯楽や買い物に使い込んでいたりする悪質な事例もあります。
| 不正資金の用途 |
|---|
|
・有価証券等への投資 ・競馬や海外カジノ等のギャンブル ・ブランド品等の購入 ・高級クラブなどでの飲食等の交際費、遊興費 ・アプリを通じた動画配信者やゲームへの課金 など |
5.不正は必ず見抜かれる
令和7年度の査察概要が示すのは、「デジタル化やグローバル化が進んでも、不正は必ず見抜かれる」という国税当局の強い意志と進化した調査力です。
時代の変化に合わせてビジネスの形が変わっても、税金のルールが変わるわけではありません。
「バレないだろう」という安易な油断が、有罪率100%、時には実刑判決という、取り返しのつかない破滅を招きます。
税制やビジネス環境がどれほど変化しようとも、企業や個人に求められる本質は、日々の取引を正しく記録し、誠実に申告するという「健全な税務コンプライアンス」の徹底です。目先の利益に惑わされることなく、透明性の高い経営を続けることこそが、結果として会社と個人の未来を守る最大の防衛策と言えるでしょう。
■参考資料
[国税庁]
「令和7年度 査察の概要」