Management Column令和6年度 国税庁査察の実態

国税庁が発表した「令和6年度 査察の概要」では、悪質な脱税への厳正な対応を通じた課税の適正化と申告納税制度の維持に向けた取組が報告されました。本年度は98件の告発と82億円にのぼる脱税総額が明らかとなり、消費税不正受還付や無申告、国際事案、社会的波及効果の高いケースに対して、重点的な調査が実施されました。デジタル化・国際化が進む中、巧妙化する手口への対応と、有罪率100%という高い司法成果も注目されるポイントです。
1.脱税告発98件、脱税総額82億円に、実刑判決も多数
令和6年度において、国税庁は98件の脱税事案を検察庁へ告発しました。告発された案件の脱税総額は82億円、1件あたり約8,400万円にのぼります。告発率は65.3%と前年よりやや低下しましたが、一審判決99件全てで有罪が言い渡され、13人に実刑判決が下されました。
そのうち最も重いものは懲役9年で、詐欺などの併合罪によるものです。脱税資金は高級品や暗号資産への投資、海外カジノなどにも使われており、その実態の悪質性が浮き彫りになりました。
◆着手・処理・告発件数、告発率の状況
項目 | 令和2年度 | 令和3年度 | 令和4年度 | 令和5年度 | 令和6年度 | |
---|---|---|---|---|---|---|
着手件数 | 111件 | 116件 | 145件 | 154件 | 151件 | |
処理件数 (A) | 113件 | 103件 | 139件 | 151件 | 150件 | |
告発件数 (B) | 83件 | 75件 | 103件 | 101件 | 98件 | |
告発率 (B/A) | 73.5% | 72.8% | 74.1% | 66.9% | 65.3% |
◆脱税額の状況(単位:百万円)
項目 | 令和2年度 | 令和3年度 | 令和4年度 | 令和5年度 | 令和6年度 | |
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脱 税 額 |
||||||
総額 | 9,050 | 10,212 | 12,760 | 11,980 | 11,270 | |
同上1件当たり | 80 | 99 | 92 | 79 | 75 | |
告発分 | 6,926 | 6,074 | 10,019 | 8,931 | 8,230 | |
同上1件当たり | 83 | 81 | 97 | 88 | 84 |
(注)脱税額には加算税額を含む。
仕入税額控除や輸出免税の悪用が横行
消費税に関する不正が依然として多数を占め、令和6年度は29件の消費税事案が告発されました。そのうち17件は不正受還付に関わるもので、不正受還付額の総額だけで30億円を超えました。具体的には、以下などです。
- 【事案の概要】
- ●高級腕時計を海外へ輸出販売したように偽装するため、インターネット等で購入した安価な腕時計を用意し高価な腕時計を購入したとする領収証や輸出関係書類を作成して、架空の課税仕入れ及び架空の輸出免税売上げを計上することで、不正に消費税の還付を受け、又は受けようとした。
- ●不動産賃貸業を営むグループ法人7社において、居住用賃貸建物の取得に係る仕入税額控除を過大に計上するため、架空の金地金取引により課税売上割合を偽装することで、不正に消費税の還付を受け、又は受けようとした。
- ●不正加担者に実際の工事代金を水増しした内容虚偽の工事請負契約書及び請求書を作成させ、課税仕入れを過大に計上することで、不正に消費税の還付を受けようとした。
- ●ネットオークションやフリマサイトで行ったトレーディングカードの売上げを計上しない方法により課税売上げに係る消費税額を過少に計上することで、消費税の中間納付に係る還付を受けるとともに、納めるべき消費税を免れていた。
また、無申告事案も13件告発され、農作業収入や動画配信の使用料、コロナ支援金の仲介手数料などに係る申告逃れが摘発対象となりました。無申告は納税制度の根幹を揺るがす行為として厳しく対処されています。
◆税目別の脱税額(単位:百万円)
区分 | 令和2年度 | 令和3年度 | 令和4年度 | 令和5年度 | 令和6年度 |
---|---|---|---|---|---|
所得税 | 886 | 779 | 2,424 | 1,214 | 1,800 |
法人税 | 3,826 | 3,519 | 4,275 | 5,734 | 4,241 |
相続税 | 0 | 0 | 288 | 152 | 624 |
消費税 | 2,031 | 1,655 | 3,010 | 1,831 | 1,388 |
源泉所得税 | 183 | 121 | 22 | 0 | 177 |
合計 | 6,926 | 6,074 | 10,019 | 8,931 | 8,230 |
(注)脱税額には加算税額を含む。
3.海外口座、暗号資産活用の脱税が目立つ
グローバル化やデジタル化の進展により、国際事案も20件が告発されました。医薬品通販やアフィリエイト報酬などの収入を海外口座に留保したり、暗号資産に換えたりすることで、所得税を免れる手口が散見されます。
また、光学部品の国外売上げ除外や架空外注費の計上による、法人税及び所得税逃れなど、より複雑・巧妙な脱税スキームへの対応も進んでいます。租税条約に基づく情報交換制度も活用され、国境を越えた不正に対する連携体制が整備されています。
4.芸能事務所や医療法人も摘発対象に
査察は、社会的影響力の大きい事案にも注力しています。有名タレントが所属する芸能事務所の架空外注費計上や、医療法人が理事長の高級時計購入費を診療材料費に仮装計上する以下などの事例が告発されました。
- 【事案の概要】
- ●脱税指南者が、複数の給与所得者を勧誘した上で、架空の事業所得の損失を計上して給与所得と損益通算することにより、給与所得に係る源泉所得税の還付を受ける不正手段を指南し、これらの者の所得税を免れさせていた。
- ●税理士である脱税請負人が、自ら架空外注費の計上先となる不正加担先を用意した上、自身の顧客に脱税を指南し、多額の法人税及び消費税を免れさせていた。
- ●弁護士業を営む法人が、不正加担者を利用し取引事実のない架空の業務委託費を計上する方法により、法人税を免れていた。
- ●人気タレントが所属する芸能事務所が、複数の不正加担先に架空の請求書や業務委託契約書を作成させた上、架空の広告宣伝費や外注費を計上する方法により、法人税及び消費税を免れていた。
- ●ダイエット目的で人気の漢方内科診療を行う医療法人が、理事長の私的な高級腕時計の購入代金を診療材料仕入高に仮装計上する方法により、法人税を免れていた。
さらに、税理士や脱税指南者が関与した組織的脱税や、相続財産の申告漏れなども摘発対象です。令和6年度に告発された業種としては、建設業(21件)、不動産業(11件)、人材派遣業(5件)が上位を占めています。
◆告発の多かった業種
令和4年度 | 令和5年度 | 令和6年度 | |||
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業種 | 者数 | 業種 | 者数 | 業種 | 者数 |
建設業 | 22 | 不動産業 | 18 | 建設業 | 21 |
不動産業 | 13 | 建設業 | 16 | 不動産業 | 11 |
小売業 | 12 | 人材派遣 | 6 | 人材派遣 | 5 |
人材派遣 | 5 | 小売業 | 5 | — | ‐ |
(注)同一の納税者が複数の税目で告発されている場合は1者としてカウントしている。
■参考資料
・【国税庁】令和6年度 査察の概要(令和7年6月)