Management Column義務化される「カスハラ対策」と企業が講じるべき5つの措置

近年、顧客や取引先等からの悪質なクレームや過剰な要求といったカスタマーハラスメント、通称カスハラが大きな社会問題となっています。誰もが安心して働ける職場環境づくりを目指し、2025年6月に労働施策総合推進法が改正されました。
この法改正により、2026年10月1日から、接客やサービス業に限らず様々な業種・業態において、カスハラ防止のために必要な措置を講じることが事業主の義務となります。
今後は、カスハラへの対応を現場の個人に任せるのではなく、組織全体で働く人を守る仕組みをつくることが求められます。本コラムでは、カスハラに該当する言動の考え方や法改正のポイントを解説します。
1.そもそもカスハラとは?
法律・指針では、以下の3つの条件をすべて満たす言動をカスタマーハラスメントと定義しています。
- 1.職場において行われる、顧客、取引相手、施設の利用者など、事業主の行う事業に関係を有する者からの言動であること。
- 2.労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えたものであること。
- 3.その言動により、労働者の就業環境が害される、強い精神的苦痛や業務への支障が生じること。
■カスハラに該当しうる例
社会通念上許容される範囲を超える言動は、主に「要求の内容」と「手段・態様」の2つの観点から分類されます。
1. 言動の「内容」が許容範囲を超えるもの
| 無関係・不当な要求 |
商品の欠陥等と無関係な要求 性的な要求、労働者のプライバシーに関する要求。 |
|---|---|
| 過剰なサービス要求 | 契約等で想定されている内容を著しく超える無理なサービスの提供要求。 |
| 実現困難・不可能な要求 | 契約金額の著しい減額要求など、対応が著しく困難または不可能な要求。 |
| 不当な損害賠償要求 | 商品・サービス等の内容と無関係な不当な損害賠償の請求。 |
2. 手段や「態様」が許容範囲を超えるもの
| 身体的な攻撃 | 殴る、蹴る、叩く、物を投げつけるなどの暴行・傷害行為。 |
|---|---|
| 精神的な攻撃 | 人格を否定する暴言、名誉毀損、侮辱、脅迫、土下座の強要。 |
| 威圧的な言動 | 同じ質問やクレームを執拗に繰り返す行為。 |
| 拘束的な言動 | 長時間の電話、店舗での居座り、不退去、監禁行為。 |
| ネット上での誹謗中傷 | SNSやインターネット上への労働者の氏名・顔写真等の無断公開や誹謗中傷。 |
■限度を超えた行動
暴力、脅迫、器物損壊、長時間の居座りなどは、ハラスメントにとどまらず刑法上の犯罪行為に該当する可能性があります。
■企業のカスハラの影響
カスハラは単に現場の不快感にとどまらず、企業組織そのものにも大きなダメージを与えます。
| 離職の増加と人手不足の悪化 | 悪質なクレーム対応による精神的疲労から退職につながるケースが増加しています。 |
|---|---|
| 業務の停滞 | 長時間にわたる電話や居座り等により、通常業務がストップし、多大な時間的・精神的コストが奪われます。 |
| ネット上の誹謗中傷リスク | 近年では労働者の氏名や顔写真をSNS上に無断投稿される事例も発生しています。労働者のプライバシー侵害や企業のブランドイメージ低下を招いています。 |
2.事業主に義務付けられる「5つの措置」
2026年10月1日以降、企業・事業主は以下の体制構築と運用を行わなければなりません。
- ■1 事業主の方針等の明確化および周知・啓発
- ・カスハラに対して「毅然とした態度で対応し、労働者を保護する」旨の方針を明文化する。
- ・カスハラの定義や事案が発生した際の対応マニュアル等を定め、従業員に周知・啓発する。
- ■2 相談体制の整備(相談窓口の設定)
- ・労働者が被害を受けた際に相談できる窓口(担当部署や外部窓口など)を設置し周知する。
- ・相談窓口担当者が適切に対応できるよう、適切なマニュアル作成や研修等を行う。
- ■3 事後の迅速かつ適切な対応
- ・相談があった場合、事実関係を迅速かつ正確に把握・確認する。
- ・事実が確認された場合、被害を受けた労働者に対する必要な配慮を行う。 (メンタルヘルスケア、配置換等)
- ・再発防止に向けた適切な措置を実施する。(取引ルール等の見直し・改善など)
- ■4 対応の実効性を確保するための抑止措置
- ・脅迫・暴行・過度な拘束など特に悪質と認められる行為に対する対処方針をあらかじめ定める。
- ・状況に応じて警察への通報、弁護士への相談、契約解除等の適切な措置が取れる体制を整える。
- ■5 相談者・関係者の保護(プライバシー保護・不利益取扱いの禁止)
- ・相談者や関係者のプライバシーを保護するための措置を講じ、従業員に周知する。
- ・カスハラ被害の相談や事実確認への協力を理由として、解雇や降格などの不利益な取扱いをすることを禁止する。
3.カスハラ防止のための望ましい取り組み
事前の準備として、「カスハラには毅然と対応し労働者を保護する」という基本方針や具体的な対処基準を明確にし、全従業員に周知・啓発することが求められます。
あわせて相談窓口を設置し、担当者が適切に対応できるよう体制を整えるとともに、特に悪質なケースに備えて警察や弁護士等と連携できる対処方針や体制をあらかじめ定めておく必要があります。実際にカスハラが発生した際には、迅速かつ正確な事実確認を行い、被害を受けた労働者へのケアや配置換などの適正な措置を速やかに講じなければなりません。さらに、再発防止策の実施やプライバシー保護の徹底に加え、相談したことを理由とする不利益な取扱いの禁止を定め、徹底することが義務となります。
■自社側の対応やサービスの不備」を改善
カスハラを未然に防ぐためには、単に悪質なクレームに対処するだけでなく、発生の引き金となる「自社側の対応不備」を改善することも重要な課題です。 厚生労働省の実態調査によると、カスハラへ発展した背景には「顧客対応やサービスの遅延(71.2%)」や「対応者の説明・コミュニケーション不足(63.6%)」が多く挙げられており、初期段階での説明不足や対応の遅れが顧客の不満を過度に変質させている実態が見られます。 そのため企業には、日頃の研修を通じた従業員の顧客対応力や説明スキルの向上、クレーム発生時の対応マニュアルの整備が求められます。
■組織全体でサポートする体制
重要なのは、現場の担当者一人に苦情対応を抱え込ませず、複数人や組織全体でサポートする体制を構築することです。労働者を守る強い組織体制づくりと、平常時の適切なコミュニケーションの双方が、実効性のあるカスハラ予防につながります。
4.カスハラ対策と安心して働ける環境づくり
カスタマーハラスメント対策の義務化は、単なる法令遵守にとどまりません。
現場の個人に無理な対応を任せず、組織として守る姿勢を明示することは、従業員のエンゲージメント向上や離職防止、ひいては企業の持続的な成長にもつながります。
施行に向け、自社の方針明確化やマニュアルの改訂、相談窓口の整備などを計画的に進め、誰もが安心して働ける職場環境づくりに取り組んでいきましょう。
■参考資料
[政府広報オンライン]
カスハラとは?法改正により義務化されるカスハラ対策の内容やカスハラ加害者とならないためのポイントをご紹介[厚生労働省]
令和8年10月1日から、カスタマーハラスメント対策、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が義務化されます!従業員を守るために ─ カスタマーハラスメント対策の新ルール
