Management Column熱中症を見逃さない!職場における熱中症対策の強化とは

近年の猛暑や高温多湿環境の常態化に伴い、職場における熱中症の死亡・重篤災害を防止するため、2025年6月1日に労働安全衛生規則が改正・施行されました。
これまでは厚生労働省の指針として実施が推奨されていた内容の一部が、今回の改正により「罰則付きの法的義務」へと強化されています。
今回は本格的な夏を迎える前に、大切な従業員の命を守るための「義務」と熱中症の恐ろしさついて解説します。
1.職場における熱中症の現状
2025年、夏の日本の平均気温は統計開始以来最高を記録し、それに伴い職場の熱中症災害も深刻な状況となっていました。
- ■死傷者数は過去最多
- 2025年の職場での熱中症による死傷者数(死亡+休業4日以上)は1,803人に達し、統計を取り始めた2005年以降で最多となりました。
- ■製造業・建設業で約4割
- 業種別では製造業、365人と建設業、292人が圧倒的に多く、この2業種で全体の約4割を占めています。
- ■7月・8月に集中
- 全死傷者の約77%が7月・8月の2カ月間に集中しています。
- ■夕方や帰宅後の重篤化に注意
- 発生時間帯は日中全般にみられますが、17時〜18時以降の夕方に死亡に至るケースも少なからず発生しています。これは「日中には強い症状が出ず、作業終了後や帰宅後に急激に悪化する」ケースがあるためです。
2.対象となる「熱中症を生ずるおそれのある作業」
熱中症は初期症状を放置したり対応が遅れたりすることで、急速に重篤化し、最悪の場合は死に至るケースがあります。 職場における熱中症対策の強化は、熱中症のおそれがある作業者を「早期に見つけ」、状況に応じて「迅速かつ適切に対処する」仕組みをすべての事業場に義務付け、重篤化を防止することを目的としています。
■対象となる「熱中症を生ずるおそれのある作業」
| 環境基準 | 暑さ指数(WBGT)が28℃以上、または気温が31℃以上の作業場(屋内外問わず) ※暑さ指数(WBGT)は、気温・湿度・日射・風を基に算出され、体内の熱の伝わり方を表す指標です。特に湿度の影響を強く受け、28以上で救急搬送が急増するため警戒が必要になります。 |
|---|---|
| 時間基準 | 上記環境下で、連続して1時間以上、または1日当たり合計4時間を超えて行われることが見込まれる作業。 |
3.事業者に義務付けられた「3つの措置」
- ■1:「見つける」仕組み:早期発見のための体制整備
- 熱中症の予兆や初期症状を早期に発見できる連絡体制をあらかじめ構築します。 作業者本人がめまい、立ちくらみ、だるさ等の自覚症状を覚えたとき、または周囲の作業員が「様子がおかしい」と気づいたときの緊急連絡先や対応責任者を事業場ごとに定めます。
- ■2:「対処する」仕組み:重篤化防止のための措置の実施手順作成
- 実際に熱中症が疑われる労働者が発生した場合、現場が迅速に行動できるよう、具体的な対応フローを事前に作成します。
- ■3:「周知」の徹底:事前に関係作業者への周知
-
事前に現場で働くすべての関係作業者に上記で定めた「連絡体制」と「実施手順」を周知しなければなりません。
[周知の一例]
・安全衛生教育や朝礼、作業開始前ミーティングでの説明。
・休憩所や見やすい場所への連絡体制・対応フローの掲示。
■罰則
怠った場合、労働安全衛生法第119条により6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される可能性があります。
4.職場における熱中症予防対策要綱に基づく取組み
厚生労働省の指針では、職場の熱中症予防対策として「WBGT(暑さ指数)」の活用を定めています。
■WBGT(暑さ指数)の把握
作業場所に応じたWBGT値を定期的に測定します。作業環境のWBGT値が基準値を超える際には、下記の熱中症予防対策が必要になります。
- ■作業環境の改善
-
・遮蔽物や通風などで現場のWBGT値の低減に努める。
・休憩所に日よけ、冷房設備、ミストファンの設置。 - ■作業管理の徹底
- 定期的な休憩時間の確保、作業負荷の調整、服装の管理を行います。
- ■健康管理
- 睡眠不足や体調不良、前日の飲酒、朝食の未摂取などは熱中症の発症リスクを高めるため、日常的な健康管理の指導や健康相談を行うことが求められます。作業開始前に体調を確認し、作業中も巡視を行い、声掛けなどによる健康状態の把握に努める必要があります。
- ■安全衛生教育
-
本格的な暑さを迎える前に、熱中症の症状や予防法の教育を全員に行います。また、現場では「めまい、頭痛、意識障害」などの初期症状と救護フロー(冷却、水分補給)の周知を行います。
5.熱中症が疑われる人を見かけた場合の応急処置手順(一例)
熱中症は、高温多湿な環境下で体内の水分や塩分のバランスが崩れたり、体温調節機能がうまく働かなくなったりすることで引き起こされる障害の総称です。
現場で体調不良者が出た場合、初期対応の遅れが命取りになります。軽症の段階で早めに異常に気づき、応急処置をすることが重要です。
| ステップ1 意識の確認 |
▶ 意識がない、返事がおかしい場合 ただちに救急車(119番)を要請します。救急車が到着するまで、絶対に1人にせず、作業着を脱がせ、水をかけるなど、可能な限り身体を冷やし続けます。 ▶ 意識がはっきりしている場合 ステップ2へ進みます。 |
|---|---|
| ステップ2 涼しい場所への避難 |
エアコンが効いた室内や、風通しの良い日陰など、速やかに涼しい環境へ移動させます。 |
| ステップ3 身体の冷却 |
衣服を緩め、皮膚に水をかけてうちわや扇風機で仰ぐか、冷たい缶飲料や氷のうで 「首の回り」「脇の下」「足の付け根(股関節)」などの太い血管がある部分をピンポイントで冷やします。
|
| ステップ4 水分・塩分の補給 |
冷えた経口補水液やスポーツドリンク、または水と塩分を補給させます。 [注意] 吐き気がある場合や、自力でペットボトルを持てないなど水分をうまく飲めない場合は、誤嚥の恐れがあるため無理に飲ませず、即座に病院へ搬送または救急要請してください。 |
| ステップ5 見守り |
[絶対に1人にしない] 応急処置をした後は必ず誰かが付き添い、症状が改善するか経過を観察してください。「少し休めば大丈夫」と1人で休憩室に放置した結果、容体が急変して発見が遅れるケースが非常に多く危険です。 |
6.全員の意識と行動で、熱中症リスクゼロの職場へ
この法改正は、従業員の「命と健康を守る」ための重要な取り組みです。熱中症は、一人ひとりの体調管理への意識と、周囲の「声を掛け合う姿勢」によって防ぐことができます。
本格的な夏を迎える前に、いま一度自組織の体制や手順を確認し、全社一丸となって安全で快適な職場環境づくりに努める必要があります。
■参考資料
[厚生労働省]
「職場でおこる熱中症」パンフレット「職場における熱中症対策の強化について」
パンフレット「~職場における~熱中症予防基本対策のススメ」
[四日市市]
「職場における熱中症対策について」[政府広報オンライン]
「熱中症特別警戒アラートとは?発表時の対策と熱中症予防のポイント」