Management Columnキャッシュレス化がもたらす“お金の流れ”の変化

ここ数年、私たちの暮らしの中から「現金」という存在が少しずつ姿を消しつつあります。街のカフェやスーパーではスマートフォン一つで支払いが完結し、財布を開く機会は減ってきました。
2022年から国や自治体への手数料・税金などの納付がキャッシュレスで行えるようになり、翌2023年には賃金のデジタル払いがスタートしました。こうした制度の整備によって、行政・企業・個人の間でお金の流れがデジタル化され、データで完結する経済インフラが広がっています。
また、経済産業省の発表によると、2024年の国内キャッシュレス決済比率は42.8%(決済総額141兆円)に達し、政府が掲げていた「4割程度」という目標を上回りました。
キャッシュレスはデジタル化推進の重要な要素の一つです。今後、益々私たちの生活と経済の基盤に深く根を下ろすことでしょう。
1.キャッシュレスの定義
キャッシュレス決済とは、現金(お札や硬貨)を使わずに、電子的な方法で支払いを行う仕組みです。代表的な手段には、クレジットカード、デビットカード、電子マネー、QRコード決済などがあります。
■キャッシュレス決済の支払方法の仕組み
| ①前払い (プリペイド) |
あらかじめ入金(チャージ)しておき、残高の範囲内で支払う方式です。使い過ぎを防げるのが特長で、交通系ICカード(Suica、PASMOなど)やコンビニ・スーパーの電子マネー(nanaco、WAONなど)が代表的です。 |
|---|---|
| ②即時払い (デビット) |
銀行口座と直結しており、支払いと同時に口座から代金が引き落とされます。現金感覚で利用できるのが特徴で、銀行やクレジットカード会社が発行するデビットカード(例:J-Debit、VISAデビットなど)が該当します。 |
| ③後払い (ポストペイ) |
商品やサービスの代金をカード会社が一時的に立て替え、後日まとめて請求される方式です。代表的な手段はクレジットカードで、支払いは一括払い・分割払い・リボ払いなどを選べます。注意点として分割払いやリボ払いは、手数料が加算されます。 |
■主なキャッシュレス手段
キャッシュレスは自分のライフスタイルや目的に合わせて、前払い・即時払い・後払いの中から選ぶことができます。
| 手段 | 支払方法 | 特徴 |
|---|---|---|
| 電子マネー プリペイドカード |
前払い | チャージして使う。 交通機関やコンビニで広く利用可能。 |
| デビットカード | 即時払い | 銀行口座から即時引き落とし。 使いすぎを防げる。 |
| クレジットカード | 後払い | 利用金額を後日まとめて支払い。 ポイント還元など特典も豊富。 |
| スマートフォン決済 | 前払い・即時払い・後払い | QRコードやタッチで支払える。 各アプリにより支払方法が異なる。 |
2.何故、キャッシュレスが必要なのか?
キャッシュレス推進の意義として2023年の経済産業省が作成した「キャッシュレス将来像の検討会」で8項目の社会的意義を上げています。
- ■1:消費者の利便性向上
- キャッシュレス決済は、紙幣や硬貨を持ち歩く手間をなくし、財布やATMを意識せずにスムーズな支払いを可能にします。銀行での引き出しや釣り銭の確認、現金残高の把握といった日常的な作業が不要となり、時間的・心理的な負担を軽減します。
- ■2:インフラコストの削減
-
現金を発行・流通・管理するには、印刷・輸送・ATM運用など多くの社会的コストが発生します。日本国内では、これらの維持費が年間約2.8兆円にのぼると試算されています。
キャッシュレス化を進めることで、こうした物理的なインフラ維持コストを削減し、行政や事業者の業務効率化にもつながります。 - ■3:業務効率化・人手不足対応
- 店舗や事業者において、レジ対応の現金処理・入金管理・釣り銭管理・帳簿取付作業などが削減され、オペレーションの効率化につながります。特に人手不足が深刻な業界(小売、飲食、サービス業等)では、キャッシュレス化によって現金取り扱いによる負担を軽減し、従業員はより生産性の高い業務へシフトできます。
- ■4:公衆衛生上の安心の実現
- 現金利用では「手に触る、受け渡し」という物理的な接触が発生するため、感染症リスクの観点から懸念があります。そのため、キャッシュレス化(非接触・非対面決済)によってこの接点を減らすことが期待されます。
- ■5:データ連携・デジタル化
- キャッシュレス決済では、「誰が・いつ・どこで・いくら使ったか」というデータが自動的に蓄積されます。このデータを活用することで、企業は販売動向の分析、行政は経済政策のモニタリング、消費者は支出管理を容易に行うことができます。
- ■6:不正・犯罪抑止
- 現金取引は“目に見えない、記録が曖昧”な部分があり、窃盗・内部不正・脱税・資金洗浄などに悪用される可能性があります。キャッシュレス化・データ化により、こうしたリスクの可視化・抑止が可能になります
- ■7:多様な消費スタイルを創造
-
キャッシュレス化により、消費者が「どこでも・いつでも・すぐに」決済できるようになるため、従来の「現金をもって・ATMを探して・釣り銭を受けて」などの制約から解放されます。
さらに、スマートフォン・アプリ・ポイント連携といった付加価値サービスと融合することで、新しい消費行動(インバウンド、観光、ECとリアル融合、マイクロペイメント等)が生まれやすくなります - ■8:脱炭素社会への貢献
- 現金の発行・輸送・管理には紙幣・硬貨の製造・流通・保管という物理活動が伴い、CO₂排出やエネルギー消費といった環境負荷があります。キャッシュレス化によってこれらの物理活動を削減することが期待されます。
3.キャッシュレスの目指す姿
日本のキャッシュレス化は、最終的に「すべての決済をデジタルで完結できる社会」、つまり“決済のフルデジタル化”を目標としています。その実現に向けて「消費者・加盟店への周知・広報」に加え、「競争環境整備」、「付加価値サービスの開発」、「取引の自動化・効率化」、「認証手段の高度化」、「企業・行政DXの推進」というアクションを国だけでなく、民間企業や業界団体など多様な実施主体が連携しながら、段階的かつ着実に進めていく必要があります。
キャッシュレス化は単なる「便利な支払い手段」ではなく、社会全体の効率化・透明性向上・環境対応を実現する未来の基盤です。人と企業がより快適で安全に活動できる社会を支えるために、キャッシュレスの推進は欠かせない取り組みとなっているといえます。
■参考資料
[経済産業省]
「2024年のキャッシュレス決済比率を算出しました」「キャッシュレス」
「キャッシュレスの将来像に関する検討会」のとりまとめを行いました」
[政府広報オンライン]
「キャッシュレス決済とは?種類や活用のメリットを解説!」