5-1 決算処理の体系
5-2 各勘定科目の残高確認
5-3 仮勘定科目・経過勘定科目の整理
5-4 有価証券の評価
5-5 売上総額の確認
5-6 仕入総額の確認
5-7 人件費総額の確認
5-8 決算修正取引(棚卸)
5-9 決算修正取引(減価償却)
5-10 決算修正取引(貸倒引当金の計上)
5-11 貸倒損失の計上
5-12 資産との区分が必要となる費用
5-13 交際費とその他周辺科目との区分
5-14 寄付金の取扱い
5-15 役員と法人間での建物貸借時の留意点
5-16 生命保険料
5-17 旅費・日当
5-18 福利厚生費
5-19 リース料の取扱い
5-20 決算確認報告書の記載事項
5-21 決算確認書
5-22 役員業務内容検討書
5-23 書面添付チェックリスト
5-24 消費税の確認ポイント
5-25 消費税申告の注意点
5-26 消費税チェックシート
5-27 源泉所得税の確認ポイント
1   旅費

(1)役員への出張費用等の支給と事前対応
中小企業等においては、役員自らが出張する機会も多いと思われます。その1日当たりの出張旅費は、出張規程や旅費規程なども整備されていないことから、旅費・宿泊費・日当をひっくるめて一括で支給されるケースも多く、課税サイドから、役員本人に対する賞与、報酬ではないかとしてクレームをつけられるような事例もあるといわれています。
役員等に出張費用等一緒に支給された金銭に対して必要経費として否認される場合としてはどのようなケースが考えられるか、また、そうしたトラブルを回避するための事例対応が必要です。
 
給与所得とならない出張旅費の考え方
給与所得者の受ける出張旅費は、その出張に必要な旅行費用に充てるための実費弁償であると考えられ、その出張旅費の中身としては、新幹線や飛行機などの運賃、ホテルなどの宿泊費といった旅費の他に、その旅行中の食費や諸雑費の支出を償うための日当が含まれます。
  これらの費用は、その出張の目的や目的地、旅行者の地位などによって一様ではないことから、そのすべてを実費精算するのは事務上ほぼ不可能なため、その出張旅費として給与所得者が受けた金額が、その出張に通常必要と認められる範囲内であれば、所得税を非課税としています。その反対に金額が通常必要と認める範囲を超える場合には、その超えた金額については、給与として課税されます。
 
非課税とされる旅費の範囲
給与所得者に対する出張旅費の非課税については、所得税法九条一項四号では、給与所得者が勤務場所を離れてその職務を遂行するために旅行し、その旅行に必要な支出に充てるために支給される金品で、その旅行について通常必要であると認められるものとあるだけで、また、参考になる判例等もほとんどなく、具体的な非課税の範囲については、所得税基本通達九−三(非課税とされる出張旅費の範囲)を参考にするしかありません。

この通達によると、非課税の範囲内かどうかの判定に当たっては、次に掲げる事項を勘案するとなっています。

その支給額が、その支給をする使用者等の役員及び使用人のすべてを通 じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものであるかどうか。
その支給額が、その支給をする使用者等と同業種、同規模の使用者等が一般 的に支給している金額に照らして相当と認められるものであるかどうか。
この通達も非課税の範囲についての考え方を示しただけで、具体的な非課税の限度額については規定されていません。したがって、その支給に当たっては、同規模の同業他者の旅費規程などを参考にすることが必要です。
 
税務上の留意点
(1)一括で支給されている場合
出張旅費規程等の整備がされてなく、運賃、宿泊費、日当などが役員等に一括して支払われている場合であっても、その役員等の職務を遂行するための出張で、その出張に必要な支出に充てるために通常必要と認められる範囲内で支給したものであれば、たとえその金額が役員報酬を超える金額であったとしても、給与所得としての課税は行われないと考えます。
ただし、このような場合に限らずこれらの事実関係を証明する書類やその金額の妥当性について立証するなんらかの書類は残しておく必要があります。

(2)年額又は月額により支給される出張旅費
出張旅費に充てるための支給であっても、年額又は月額により支給されるものは、名目が出張旅費であっても、その実態は出張旅費ではなく職務の遂行に関連して支給されるものと解されて給与等として課税されるケースが考えられます。
ただし、この場合でもその出張旅費として支給を受けた金額が明らかに、その支給を受けた者の職務の遂行のために必要な出張費用で、その金額が通常必要と認められる範囲内であることが認められれば、給与等として課税されません(所基通二八−三)。

(3)出張費以外の費用が含まれている場合
出張の内容によっては、顧客との接待が必要な場合も考えられ、これらの費用を含めて出張旅費として役員等に支給される場合が考えられますが、出張旅費以外の会社の業務に必要な費用は、本来使用者が直接支出すべきもので、出張旅費として役員に支払われるものではないことから役員に対する給与等として課税されることがあります。
ただし、その会社の業務のために使用すべきものとして支給されるもので、そのために使用したことの実績が明らかなものについては、課税されないこととなっています。

(4)高額な出張旅費
業種によっては、零細な企業でも大企業よりも高額な出張旅費を必要とする場合もあります。たとえば主たる顧客が外国人の貴賓などで、宿泊するホテルなど、顧客のレベルに合わせた付き合いが必要な場合や、夫婦同伴での出張といったように、常に高額な出張旅費が支給されている場合に、税務調査で問題にされるケースが考えられます。
しかし、出張旅費の金額が高額かそうでないかの判断は、一概に金額の大小で判断することはできません。その支出がその企業にとって必要なものである限り、その支給した金額がその支給を受けた役員等の職務の遂行に必要な範囲内であるかどうかで判断することになります。
したがって、後日問題とならないように、高額な出張旅費を支給する場合には、その必要となった理由を証明できる書類を残しておく必要があります。
 
 
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